アメリカで2年前に始まったビジネスジェット機を使った大学訪問ツアーが高所得層に大人気。効率よく全米の大学が回れるだけではない。1年の学費にも相当する参加費をポンと払えるお金持ちの証明として、近年拝金主義を強めるアメリカの名門大学への合格切符にもなる。本日は、「ニューズウィーク日本版 」より「米名門校の入り方」をご紹介しましょう。

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 8月下旬のある朝、ロサンゼルス在住の元政治家が10代の息子を連れてビジネスジェット「ガルフストリームG200」に乗り込んだ。

 上品なベージュで統一されたキャビンでは、革製ラウンジチェアの上に名門大学の垂れ幕が挨拶代わりに並べられ、陽気な雰囲気を醸し出している。ジョンズ・ホプキンス大学やコルビー大学、ダートマス大学など、アメリカで最も優秀なリベラルアーツカレッジをめぐる貸し切りツアーの始まりだ。

 乗客の2人は、9日間で全米9つの大学を訪問する。空港と大学、ホテル間の送迎には運転手付きの車が待っているし、機内の調理室のバーには、ブラウニーやバニラアイス、ダイエットスプライトなどが常備されている。

高所得者のための大学訪問ツアー

 小さなダイニングテーブルの上には、アイビーリーグ進学指導の専門家が書いた大学攻略ガイド。ダートマス大学のTシャツとベースボールキャップの間に挟まれたメモにはこう書いてあった。「お客様の記念となる今回のご旅行を、マジェランジェットがお手伝いできることを嬉しく思います」

 高校の最上級生として進学先の大学を選ぶこうしたやり方がまかり通っていることが信じられないという人は、自分の銀行口座の残高がわずかであることを恨むしかない。ボストンを拠点とする会員制航空会社マジェランジェットが最近売り出した大学訪問のためのパッケージツアーは、アメリカの高所得層を対象に企画されたものだ。

 大学1年分の授業料より高額な大学訪問ツアーのメリットの1つは、全米の大学を訪問する時間と煩わしさを軽減できることだ。ビジネスジェットで飛んできたことで、自分は金持ちだというアピールもできる。これが昨今のアメリカの名門大学にはとても効く。

 マジェランジェットは、効率的な旅行ルートの設定からキャンパスでのプライベートツアーの手配、陸路の交通手段の調整も行う。基本料金はジェット機の種類ごとに決められており、小型の7人乗り「ホーカー400XP」を利用する飛行時間10時間のツアーは5万2000ドルから。前述した超中型ガルフストリームG200の場合は、最大18人が着席可能で、同じツアー料金がおよそ10万ドルだ。

 ツアーは超富裕層の子どもと親に大人気だと、同社のジョシュア・ヘバートCEOは言う。マジェラン会員の多くはもともと自家用ジェット機を所有しているが、大学ツアーも含め飛行プランの作成などが煩わしいためにマジェランのサービスを買うのだという。

 マジェランによると、過去2年間で22家族が大学パッケージツアーに参加しているほか、22人の顧客が、オーダーメイドのキャンパス訪問を行った。

 アメリカの名門大学が、学生の勧誘で富裕層の子どもにターゲットを絞り、多少成績が悪くても大目に見る傾向にあるのは周知のとおりだ。2004年にピュリツアー文学賞を受賞したアメリカのジャーナリスト、ダニエル・ゴールデンは、著書『合格の値段──アメリカの支配階級が金で名門大学に入る一方、締め出されているのは誰か』のなかで、白人の特権階級を優先して入学させる大学入試の黒い実態を暴いた。

大学が知りたいのは親の経済力

 大学は、とにかく裕福な家庭の子どもを入学させたがる。たとえ書類審査の評価が低くても、優先されるのは学力より親の経済力。高等教育は金次第のビジネスだ。全米上位の大学はどこも莫大な寄付金を集められたからこそ、充実した図書館を完備し、優秀な教授陣を囲い込み、キャンパスを豪華にして今の絶対的な地位を築くことができたのだ。

 その結果、アメリカの名門大学に入学するのは今や米大統領選に出馬する以上の難しさで、合格基準は以前にも増して不透明になっている。こう話すのは、マジェラン社の大学ツアー参加者に参考資料を提供するアドバイザーのミミ・ドウだ。彼女の推計では、どこの大学も全学生の半数を、スポーツ推薦枠からの入学者や卒業生の子息、もしくは富裕層の子息が占める。

 多額の寄付を確保したい大学関係者は、入学許可の判断材料として、あらゆる手段を講じて応募者の家庭の経済力を探ろうとする。やり手の大学カウンセラーや同窓生、豪華な大学ツアーを提供するプライベートジェット運営会社まで、情報源はいくらでもある、というわけだ。

 ゴールデンによると、アメリカの大学は裕福な家庭の子どもを囲い込むため、ずい分前から名門の進学校などにリクルーターを送り込んでいる。マジェランの大学ツアーに参加したとわかれば、それだけでもう合格は約束されたも同然で、本人は努力をしなくなる。ゴールデンは前述の著書に「金とコネがどんどん大学の入学制度を汚し、信用と価値を落としている」と書いた。

 もしアメリカの高等教育の重要な使命が、貧乏に生まれても努力次第で成功できるチャンスを増やすことだとするなら、今の教育制度は破綻している。大学が欲しいのは、すでに社会の最上位にいる家族とその子どもたちだ。ある調査では、出願する大学を訪問して簡単な面接を受けるだけで、大学側に志望の本気度が伝わり、合格の可能性が高まるという結果も出たが、大学を訪ねるための高い旅費を払えるのは金持ちだけだ。

 大学のエリート主義は今に始まったことではないが、大学進学を取り巻くこうした現状は、アメリカの格差拡大の何よりの証拠だ。米大統領選を前に、学生ローンの負担の大きさや学費の高騰が問題視されてきたが、ゴールデンはそれ以上に、高額な大学ツアーが活況を呈す現状に危機感を募らせている。

ジェット機による大学ツアーの参加費を払える親をもつ志願者がいる一方で、多くの学生が学費の工面に四苦八苦している。これがアメリカの現実だ」


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